今日から、子供を預かることになった。

名前はサンジ。歳は六歳。本当なら小学校に通い始める年齢だ。
見た目は六歳にしては少し幼い、大きな海のような色の目と、きらきらの髪。

くいなに連れてこられた時、サンジはその大きな瞳に涙をいっぱいにして、それでも泣くまいと唇を噛んで必死で堪えていた。
独りになる孤独感、誰かに頼りたいと思う弱さ、けれどどうにもならない現実。
目の前の小さな子供は、立ちはだかる冷たい現実を見上げて悔し涙を溢れさせた。
その姿がどこか、過去の自分と重なって見えて、見捨てることができなかったのだ。

(しかし…)

正直ゾロには小さな子供をどう扱っていいのかさっぱり分からない。
兄弟は姉しかおらず、随分昔に巻き込まれた事故で死別したし、子供に好かれるタイプでもない。
さてどうしたものか、と中身と見た目がチグハグな子供を目の前に内心冷や冷やしているゾロに、サンジが唐突に告げた。

「おれ、着替える」

唯一サンジの荷物である小さなキャリーケースの中から、真新しいスカイブルーのジャージを小さな手が探し出す。
脱ぎ去った堅苦しい服をぐちゃりと床に放置して、サンジはおぼつかない手つきでジャージの袖に腕を通す。
いかにも高級そうな洋服は適当に放り出したままで、さっそく皺くちゃになっている。
言動はやたら大人びているし生意気だが、こんなところはまだてんで子供だ。
そう思うと安堵して、ゾロはサンジのとなりに膝を折って、その手元を微笑ましく見つめた。

「それはシャンクスが買ってくれたのか?」
「内緒だ」

とにかく会話を繋いでこの子供と打ち解けることから始めようと、あまり得意ではない話術を駆使してサンジに話しかけてみる。
どこか誇らしげに言うサンジの様子は、おもちゃを買ってもらった子供がくすぐったい喜びを隠している様とよく似ている。
上手くジャージを羽織り、次にファスナーを閉めにかかる。
けれどどうにも上手くはまらないらしく、チャックはかちゃかちゃと音を鳴らすだけで、上手くいかないことに苛立ってサンジは眉をぎゅっと中央に寄せた。


「んーー」
「貸してみろ」
「わっ」

サンジの手からチャックを奪い、慣れた手つきでさっと前を閉じると、サンジは驚きに瞳を丸くして不思議なものを見るように頬を少し綻ばせた。
ついでにキャリーの中から揃いのズボンを取り出すと、未だにファスナーとにらめっこをしていたサンジがゾロを仰ぎ見ながら、唇をアヒルのように尖らせた。

「使用人は、そんなしゃべり方はしないぞ」
「俺は使用人じゃねぇからな。お前を守る男だ」

綺麗に折りたたまれたズボンをびろんと広げながら、サンジの大きな瞳を真っ直ぐ見た。
この子供を見ていると、かつて突然独りにされた自分の孤独な姿を思い出す。
なんとか守ってやりたい。こんなに小さな子が誰にも頼れず、甘えられず、打ちひしがれる孤独感を知る必要なんてない。

当たり前に言ってのけると、サンジはきょとんとゾロを見返しながら、大きく数回瞬いた。

「…そうか」
「ああ、そうだ。ほら、ズボンはいたら寝るぞ」
「うん」

広げたズボンを差し出しながらニヤリと笑ってみせると、サンジはむずがるようにもじもじと体を揺らしてから、立ち上がってズボンの穴に足を突っ込んだ。



全ての元凶はこの勢いで書いたSSから始まった…!
2009.09.03(2009.07.30)

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